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インフレ率とGDP成長率の散布図に相関が出ない?当然でしょう。なぜなら....

 

勘違いさせやすい主張と、勘違いした人によるずれた反論

「デフレ脱却すればGDP成長する」

このような主張への反論として、インフレ率とGDP成長率の散布図を用意して、

「インフレ率とGDP成長率には相関がない。だから、デフレがGDPを停滞させる理由にはならない」

と言われることがある。

私はこのような議論を見て、「なんて不毛なことで争っているんだ」と悲しくなる。私自身が、この不毛な議論に陥って多くの時間を費やした経験があるからだ。

「デフレ脱却すればGDP成長する」という主張は、実は解釈が難しい主張であり、勘違いさせやすい表現という意味で問題がある。その解釈の難しさのせいで、誤った解釈に基づいて「相関がないから嘘だ」というずれた反論が展開されるのだ。

議論のねじれをほどくために、そして建設的な議論を始めるために、この記事を書こうと思う。

 

「デフレ脱却すればGDP成長する」の本当の意味

「デフレ脱却すればGDP成長する」

この言葉にとって、デフレとは何か。

それは、GDPデフレータの増加率がマイナスになることでもなければ、CPIやコアコアCPIの増加率がマイナスになることでもない。

この言葉にとってのデフレとは、供給力に対して需要が小さすぎる状態のことだ。

需要が小さすぎるとは具体的にどの水準か?それは、社会全体でみて、消費者が少なすぎるせいで事業をやめなければないような事業者が多くいる状態だ。需要が小さすぎるときには、生産者が生産力を増やす動機を失い、投資や賃金の支払いへの動機を失う。賃金が減ると、少なくとも機会損失という意味で、消費が減るのは当前だ。GDPは大雑把に言えば、消費+純輸出+投資 のような指標だから、需要が小さいことはGDP成長を妨げる。

「デフレ脱却すればGDP成長する」は、正確には「需要不足を解消すればGDP成長しやすくなる」であり、解釈さえ間違わなければ正しい主張であろう。

 

インフレ率は需要と供給のバランスを測る優秀な指標ではない

経済学者に言わせれば「物価は需要と供給のバランスで決まる」ことになっているのかもしれないが、実際の物価の決まり方は意外と複雑だ。説明はリンク先に外注する。

rokabonatttsu.hatenablog.com

インフレ率を左右するものは、需要と供給のバランスだけではない。仮に総需要が供給力を上回っても物価が上がるとは限らないし、総需要が供給力を下回っても物価が下がるとは限らない。

 

「デフレ脱却すればGDP成長する」への反論「相関がないから嘘だ」のどこがずれているか

・「デフレ脱却すればGDP成長する」とは、「需要不足を解消すればGDP成長する」という意味

・「超過需要がインフレをもたらす」という主張は経済学の上では正しいかもしれないが、現実の物価はそんなに単純ではない

この2点を理解した時、「デフレ脱却すればGDP成長する」への反論として「インフレ率とGDP成長率の散布図に相関がない」は成り立たないことがわかるはずだ。

例えば以下のような記事の主張

agora-web.jp

は、勘違いしやすい言葉を文字通りの意味で解釈して、的外れな反論を展開した例だろう。誰かが悪いというよりも、全員悪い。

 

インフレ率を使って需給ギャップを判断し、GDP成長率との関係を論じる方法には、上記の理由のほかにも問題がある。

インフレ率を決定する主要因についてで少し触れているが、GDP成長の条件には、物価上昇圧力になる要素と、物価下落圧力になる要素の、両方が含まれているのだ。このことがますます、インフレ率とGDP成長率の間の相関の薄さに拍車をかけている。

 

インフレ率とGDP成長率の散布図に相関が出ない理由

需要と供給のバランスの指標としてインフレ率は優秀とは言えない。そうはいっても、超過需要の時ほどインフレ率が上がりやすいことは事実だ。

「仮に超過需要の時ほど供給力が伸びやすい≒GDP成長しやすいのだとしたら、インフレ率とGDP成長率には正の相関が出てしかるべきだ。だが実際には相関がない。需要を増やしてもGDP成長しないのではないか?」

との主張がある。この主張は実は、「需要と供給のバランスの指標として、インフレ率が優秀とは言えない理由、の一部」によって棄却される。

もっと具体的な言い方をしよう。

現代の先進国では、供給力が需要の増加に適応する例がほとんどだった。需要の増加は価格の上昇によってではなく、生産量の増加によって精算されてきたのだ。そのせいで、インフレ率は、需要と供給のバランスよりも、生産費用と利潤をめぐる権力構造(例えば産油国原油を巡る価格交渉力や、労働者の賃金交渉力)によって左右されてきた。だから、

agora-web.jp

のようなサンプルの取り方*1をすると、インフレ率とGDP成長率の間に相関が出にくいのは当たり前だ。

インフレ率の上昇とGDP成長率の減少は、両立することもある。例えば。生産費用には輸入物価が含まれる。原油の輸入と石油製品やエネルギーの生産は、現代の先進国で当たり前に行われている。原油価格が上がると、生産費用が上がる。生産費用の上昇は価格に転嫁される。賃金が変わらないところで価格が上昇すると、消費が減る。物価の上昇とGDPの減少が両立する。

インフレ率の上昇なしにGDP成長率が増加することもある。例えば。もともと供給力が需要を大きく上回っていた場合は特に、需要の増加は価格の上昇ではなく生産量の増加によって対応される。企業は、市場の拡大に対して他社にシェアを奪われたくないなどの理由で、価格を据え置きつつ生産量を増やすことで対応することが多い。特に第二次・第三次産業ではそうだ。生産力の余力が少なくなれば、投資を行い、生産力を引き上げ、未来の急で予測不能な需要の増加に備えることも多い。

インフレ率の上昇とGDP成長率の上昇が両立することもある。例えば。今後とも需要が期待できると大半の生産者が判断すると、未来の利益と権力*2のために、企業は投資を拡大する。弾力的な供給力にも限界はあるので、需要が大きくなりすぎると、生産量の増加ではなく価格の上昇によって目先の利益を拡大するだろう。価格を上昇させつつ、増加した利益を使いながら積極的に投資を行い、将来の生産力を上げるのだ。このようなパターンでは、インフレ率とGDP成長率はともに上昇する。現代の先進国にこのパターンは少なめ。だからこそ、インフレ率とGDP成長率に相関が出ないわけだが。

インフレ率とGDP成長率の関係、イメージ図
前提などの情報量を落として表現しているので、ただの「イメージ図」

 

.....何言ってるかわからない?まぁね。

詳しくはMMTファンダメンタリストケインジアンとカレツキ派を含む、ポスト・ケインズ派について勉強すればわかるようになると思う。私にはまだ簡潔かつ詳細に説明することができない。苦肉の策として、ここでは、「これを読んでもらえれば、私が何を言いたかったかわかるかも?」って記事を一覧して張っておく。

rokabonatttsu.hatenablog.com

rokabonatttsu.hatenablog.com

rokabonatttsu.hatenablog.com

rokabonatttsu.hatenablog.com

rokabonatttsu.hatenablog.com

 

 

尻切れトンボになってしまったか?悔しい。加筆修正するかもしれない。

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注釈↓

*1:OECD加盟国のデータを使っている。調べてもらえればわかるが、OECD加盟国は先進国が多い。

*2:大きな市場で大きなシェアを持つ企業はそれ相応の権力を手に入れることになる。その企業がいなくなると困る人たちが増えるから。