好奇心の横断歩道を創る!

自分の思考をラバーダック・デバッグするためのブログ

経済と景気の安定化を考える。景気変動のパターンとか、安定化の方法とか。

間違いや追加情報を引用先でも何でもいいからコメントしてくださると、これを書いた人が喜ぶかもしれない。ではでは。

 

 

◎不安定性の原因の、いくつかの説明

ケインズの、投資家や起業家の期待に基づく景気の不安定性

景気は総需要と総供給のバランスでおおむね決まっているという発想に基づく。

不確実な世界において、投資家や起業家が抱く期待の時間変化によって、投資需要が大きく時間変化する。投資需要が減ったタイミングで不況になり、投資需要が増えるタイミングで好況になるという発想と思われる。

詳しいことはよくわからない。私の勉強不足だ。ケインズの理屈は解釈がやたら難しくて。

一つだけ言えるのは、新古典派総合(あるいはオールドケインジアンと呼ぶべきか?)が導入し広めたIS-LM分析が、静学分析を採用したせいで、ケインズの重要な着想である「期待に起因する根本的な不確実性」の存在を無視したということだ。あと、IS-LM分析においては、マネーストック(あるいはマネーサプライ)が、政策当局が操作できる外生的な変数だ、という想定をとっているが、現実的とはいいがたい。

 

ミンスキーの不安定性の例

ミンスキーの説明する(金融)不安定性の説明は、その時代その場所における制度や習慣によって少しづつ異なったものになる。下に示すのは、その一例。

経済の安定した成長

→楽観的な期待が社会全体を満たす

→借り入れを伴う投資ブームの発生、需要の増加に伴う好景気

→投資資金調達のため(とは限らないかも)、規制をかいくぐる金融商品の発達。これは営利企業の純粋に営利目的な動き

→質の低い担保や金融構造の受け入れ、自己資本比率の低い(銀行を含む)企業の大量発生

→さらなる借り入れを伴う投資ブームと好景気

→インフレ率の上昇&中央銀行が金融機関向けの貸出の金利を引き上げたり、オーバーナイト金利目標を引き上げたりする

→金融機関が貸し渋りだし、融資の金利が上がる

金利の上昇や借換えを含む貸し渋りが、投資を減少させ、投資の減少が融資の担保になっている資産の価格を下げ、貸し渋りが一層進む

→資産の売却によって負債を返済しようとする企業の大量発生、倒産や失業の大量発生=不況

「安定が不安定性を生み出す」みたいなことを、ミンスキーはよく言ってたらしい。彼はまた、このような意味の言葉も残している。「経済の不安定性は、経済そのものの性質である」

ミンスキーのこのような言葉は、金融と資本主義の発展の歴史を理解していたからこそだろう。彼はミンスキー・モーメントでもっとも有名かもしれないが、金融や投資の不安定性のみならず、雇用の安定化のための制度も積極的に研究していたし、歴史上の様々な金融や経済を制度的側面から見てその性質について議論していた。制度派あるいは進化経済学などと呼ばれている研究者集団からの影響をかなり強く受けているように感じる。

 

現実の資本主義経済においては、長期にわたる大不況が生じることはまれである。主な理由は以下の2つがあげられる(当然だが、ほかにも複数の理由がある)。

理由①「大きな政府」が、大規模な赤字支出を通じて流動性の高い金融資産(国債や準備預金など)を民間に提供し、民間部門の信用創造に頼らずに、民間企業の利潤と投資を維持拡大できるようにする。政府は、不況時に民間比で多く支出&少なく徴税し、好況時に民間比で少なく支出&多く徴税する傾向があるので、「大きな政府」が総需要の変化を緩和し、経済の安定化を支えてきた。

理由②中央銀行が「最後の貸し手」として機能(債権を担保に準備金を貸し出す)し、(金融)資産価格と金融市場を安定化し,金融危機の発生を防いできた。

 

 

分配の変化(所得格差)に起因する不安定性

所得格差拡大

→大企業や富裕層の手元に膨大な余剰資金がたまる(&その他大勢の家計の資金不足)

→余剰資金を持つ個人や法人が不動産や株式などの金融資産を購入し、資産価格が上昇する & 低~中所得者層が消費水準維持のために借入れを拡大

→金融部門の新たな信用創造を伴う、投機目的の資産購入=資産バブル

流動性の低い資産と借入債務を大量に持つ経済主体の大量発生

→金融機関・企業が返済の可能性を疑いだす。何か重要なきっかけがある場合もあるし、うわさが広まる程度の場合もある

貸し渋り金利上昇

→債務返済のために資産を売る経済主体の大量発生

→資産価格の下落

債務不履行の経済主体の大量発生

→金融機関・企業の収益低下と、益々の貸し渋り&高金利

→資産バブルの崩壊(資産価格の下落)と同時に消費需要縮小=不況

 

 

ファンドなどの、規制対象にならない金融商品に起因する不安定性

好景気、あるいは景気の安定

→規制に引っかからない金融商品の発明や宣伝

→規制に引っかからない金融商品が家計や企業に普及

金融商品を持つ人の資産が流動性を下げる(預金や現金が減って金融商品が増える)

金融商品の市場価格が、何らかの理由で暴落

金融商品を持つ人の金融資産が減る

金融商品を持つ人の消費支出が減る

→不況

 

 

 

◎財政収支と不安定性・持続可能性

国内の民間の収支(貯蓄超過) = 対外収支(経常収支+資本収支) - 財政収支

である。民間経済がバブルを起こすとき、新規の借り入れと民需が拡大し、国内の民間の収支(貯蓄超過)がマイナスになるのが普通だ(経験則)。民需の拡大はたいてい輸入を増やし、対外収支もマイナスになるが、同時に財政収支がプラスになることが多い。実際、過去のバブル期と呼ばれる時期には、財政収支黒字になることが非常に多かった。数少ない財政収支黒字の時期の真ん中あたりでバブルが崩壊していたというのが、過去に何度も経験されてきたことだ。GDP規模が継続的に大きくなる経済では、恒常的な財政赤字こそ正常な状態である。

逆に歴史的な不況では、民間が債務の返済のために支出を控える。輸入が減って対外収支が黒字に傾くことが多く、財政収支は景気の下支えという意図的な要素も含め、赤字幅が大きくなるのが普通だ。

下の、明治から現在までの期間の財政支出の金額の推移を方対数グラフにした図で分かるように、10年以上好景気と呼べる時期には明らかに歳出と歳入の増加が著しく、10年以上不景気と呼ばれる時期は明らかに鈍い傾向にあった。対数をとるのは、グラフの傾きが財政支出の増加「率」と比例するから。ちゃんと解釈の必要性に迫られた意味ある表現だ。

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歳入と歳出の推移 対数プロット
出典:

https://www.petitmonte.com/politics_economy_life/revenue_and_expenditure.html

ここで注意事項。このグラフを作ったデータは、一般会計で、特別会計を含まないようだ。さらには、歳入には公債(国債や地方債)の発行や償還や借り換えが含まれていると思われる。財政規模の変化率の参考には使えると思う。古い時代からの推移が見られるので使った。1980年以降、少なくとも名目値では、政府の歳出と歳入の伸びが鈍くなっているのがわかる。逆に、「戦前の戦争準備してそうな期間」と「戦後の高度経済成長期」は、歳出と歳入の伸びが早い。

IMFからのデータを使った、政府の支出と収入のグラフがこちら。本当は方対数にしたいところだが、財政収支(あるいは財政赤字)がマイナスになる以上、方対数グラフが使えないので、線形にしている。

1980~2019の一般政府の支出・収入・財政収支の推移 データの出どころ: 

Download entire World Economic Outlook database, April 2021

グラフの確かさの答え合わせといっては何だが、以下のリンク先でも、最近の日本の財政収支の推移をグラフにしてくださっているものがみられる。ありがたい。バブルの時期にはやはり、財政収支が黒字化していた。

ecodb.net

安定的な財政赤字は、民間に流動性の高い金融資産を提供し続けることを意味する。借り入れの拡大に全面的に頼らなくても、民間は需要を増加することができる。GDP比で財政赤字が小さすぎる場合、景気拡大のためには民間部門の負債拡大が必須になる。民間企業がよりシビアな債務の返済を迫られるようになるということだ。もちろん、財政赤字がいくら拡大しても、総需要が伸びない経済では、GDPは拡大しない。

「政府の純負債の拡大なしに、民間の純負債の拡大だけで資金需要をカバーした場合」は、特に民間(企業と家計)の所得格差拡大を伴うとき、長期的で継続的な経済成長が極めて難しく、経済は不安定である。一方で、「政府の純負債の拡大によって民間に金融資産が提供され続け、資金需要の一定割合をそれでカバーした場合」は、特に民間の所得格差が縮小するとき、長期的で継続的な経済成長が可能であり、経済が安定する可能性もある。

 


◎課税

消費税

所得に占める支出の割合に比例して、消費税は発生する。経験から見る限り、消費税はかなり安定した税収を示す。これは、社会全体の消費支出が中間層以下の支出の多くを占める必需品や大衆向けの商品の購入が消費の大部分を占めていて、この部分が所得の短期的な増減にあまり大きく影響を受けないということだと思う(別の言い方をすると、「消費税は実質付加価値に一定割合でかかる税金であり、国内で生産された付加価値の合計を表す指標であるGDPが短期的に大きく上下することがないため」)。景気の過熱を防いだり、冷え込みを軽減する力は弱い。それに加えて、価格設定において弱い立場にある経済主体が犠牲になりやすい税制なので、消費税そのものが倒産や失業を促す圧力になりやすい。

 

法人税

法人税に対しては私の知る限り主に二つの見解がある

・利潤に対する罰金であり、企業の投資支出や賃金上昇を促す

・価格交渉力が強い経済主体が負うべき税を、価格交渉力が弱い経済主体に押し付ける傾向にある。(大企業の法人税率が上がると、大企業が利潤を維持するために下請けのコストカットを進める、企業が法人税の支払い分人件費を削る、などといった具合)

といったものだ。どちらが支配的になるのかというのは、現場の経営陣がその時その地域の状況を見てどのような判断を下すかに決定的に依存するものではあるが、全体的な傾向を経験則として語るのであれば、現実は後者をとる。多くの実証研究がそれを示唆しているようだ法人税率を変化させたときに、価格転嫁を通じて誰の負担が実質増加したのかを調べた研究は、法人税率というパラメータを変化させる前後でありがちなパターンを抽出できる。多くの実証研究がこの方法をとっているはずだ。そしてこの方法で得られる結論は、新しく誕生する企業やその企業と取引する別の企業に法人税が与える影響には、適応できないかもしれない)法人税こちらの記事の③の意味での投資支出には(少なくとも直接)課税されることがないので、理屈の上では、生産力を伸ばすための投資支出(技術開発など)を抑制するものではないと思う。

景気が良いときに法人税収が増え、景気が悪いときは減るという、半景気循環的な機能を持つ点は、多くの人が合意するようだ(統計を見る限りそう見えるので当然の流れかと思う)。所得格差を拡大するか縮小するかという点では、何とも言えない印象。

 

所得税社会保険料や金融所得への一律課税などを含む)

累進度の高い課税と低い課税で分けて考えなければならない。

累進度の低い所得税は、消費税に近い効果を持つ。すなわち、安定した税収を示し、景気変動の抑制の役には立たず、価格交渉力の弱い経済主体が犠牲になりやすい。

累進度の高い所得税は、独自性が強い。すなわち、賃金の上下が少なくなることで景気変動を抑え、税収は不安定。価格交渉力の弱い経済主体が犠牲になりやすいことは、ここでも成り立つ。

所得税は、企業から見れば、雇用への罰金として機能するので、消費税のように雇用をやめて外注を推奨する圧力になるかもしれない。加えて、資本の導入を促し、生産量当たりの雇用数を減らす(雇用数当たりの生産量は増える)圧力になるかもしれない。


◎金融への規制と課税

金融への規制緩和金融工学の発達は、その多くがバブルを促すことになった。アジア通貨危機は国際短期融資の自由化が主な原因の一つだったし、リーマンショックはハイリスクな金融商品が中間層以下の市民に広く出回った結果である。ただ、金融は、その一部を規制すると(、資金調達の需要は消えてなくなったりしないので)、規制を回避する金融商品が発明されるという経験がある。バランスシートのふくらみは、貸借関係を結ぶだけで発生するのだ。金融工学の本質は、新しい借金を発明することといえる。

金融商品の売買を伴うすべての所得に対して、原則、高い課税をする。高い課税を例外的に回避できるのは、実体経済の取引に伴う所得であり、ホワイトリストに登録する必要がある。」くらいの包括的な法律がないと意味がないのだろう。もちろん、そんな法律を通す政治力は今の世界には存在しないし、法律が通っても実質無意味に終わるだろう。債権者は権力を持っている。米大統領は、今や、ウォール街の下僕だ。

 


◎ジョブギャランティ

ジョブギャランティは公共事業の拡大や公務員の拡充とは全く違う目的を持つ。ジョブギャランティの特徴は

・仕事内容が、急激な増減や短期的な計画でこなせる内容に限る。インフラにかかわる仕事はしない

・倫理や道徳に基づき、最低この程度の賃金が労働者に支払われるべきだ、といった水準の報酬が支払われる

・失業から再就職までのつなぎに使われることが理想

景気変動や失業率の上下の幅を小さくすることが目的

・景気が過熱するとジョブギャランティの雇用者数は自動で縮小する。その逆もしかり

・労働者にとっては、就業の習慣を維持したり社会的疎外感を緩和するなどの機能を持つ

・道徳的にも政策の効果としても「最低限」を保証するものであって「万能」ではない。公共投資や多くの公共政策の代わりにはならないし、雇用のほとんどを置き換えることもできない

一方で、公共事業や公務員雇用は、国家権力の維持向上や、安全保障、国民の生活水準を向上することがなど目的であり、景気変動や失業率のコントロールは少なくとも主目的ではない。結果的にその機能を持つが、主目的ではない。

ジョブギャランティを推奨する人は、格差拡大を防ぎ、貧困に対処するための、「的を絞った支出」という価値観を持っていることが多い。

ジョブギャランティは雇用と経済と金融の安定化を目的に使われる。雇用のバッファーストックであり、民間で雇用が増えるとジョブギャランティが減り、民間で雇用が減るとジョブギャランティが増える。雇用の最低保証があることで、民間がそれ以下の条件で人を雇いづらくなる。不況で失業者が大量発生し総需要が大きく落ち込む、といった悪循環を緩和することができる。景気がいいときは財政支出が自動で減って過剰な需要を抑え、景気が悪いときは自動で財政支出が増えて需要を下支えする。さらに、ジョブギャランティの仕事の内容を市場で求められている人材の育成の手助けになるものにすれば、ジョブギャランティの仕事ぶりのデータを入手できる民間企業(こんな書き方をすると一部の民間企業に限るみたいに見えるが、国内のすべての民間企業がアクセス可能なデータベースを公開するのが望ましいだろう)にとってはいい人を雇いやすくなる、かもしれない。失業の一部は、産業構造の変化や貿易の自由化に伴って発生する。ジョブギャランティは、労働者の生活水準を最低保証しつつ、労働者の新産業への適応を手助けし、産業変革の円滑化を進めることができる可能性がある。

ジョブギャランティ提唱者がしばしば雇用規制緩和や雇用流動化を同時に主張するのは、最低賃金の下支えと景気安定化と、産業の編成の変化への対応力強化と、労働者の生活習慣を守ることを同時に達成すると同時に、賃金上昇型のコストプッシュインフレを抑止するためでもある。

rokabonatttsu.hatenablog.com

 

 

ベーシックインカム

一部界隈で負の所得税などと表現されるように、一見経済弱者を助けることが目的の制度に見える。しかし、ジョブギャランティのように、失業を防ぐこと、営利企業の労働者の賃金を下支えすること、景気変動の幅を小さくすることといった機能がベーシックインカムにはない。ベーシックインカムを導入すると、企業は「給料下げても労働者を集められる」と考え(実際そうだし)、人件費が下がり、結果的に企業への賃金補助金になる(Amazonの倉庫で働く従業員などで、これと同じような構造の出来事が実際に起こった)。

ベーシックインカムと呼び水政策の組み合わせは、呼び水政策の意思決定に時間がかかるために、景気が回復済み・過熱気味のタイミングで支出が行われる可能性がある。また、大企業などの価格交渉力の強い経済主体に利潤が蓄積する。失業対策としては使えないので、やるべき仕事(新産業への適応や、ボランティア要素が強い労働など)が残されていて訓練次第でそれを担える人がいる時代では、社会全体でみた「人材の無駄遣い」に対応できない。

 

 

◎インフレ

インフレの原因は多様であり、事例ごとに好ましい対策方法も異なる。たいていは「輸入物価が安くなるようにする(発展途上国であれば生産力を伸ばしたり輸出を増やしたり、先進国であれば原油を買った企業に補助金をつけたり)」か、「所得拡大のスピードが上がりすぎないようにする」のが正解かな。

所得爆上げによる高インフレの何が問題なのか?「物価÷所得」は小さくなるから問題ないのでは?という疑問が残る。高インフレは内部留保を目減りさせる。無形資産へ投資額が内部留保残高と正の相関を持つことから、所得爆上げによる高インフレは無形資産で商売する産業が育ちにくいとか?

インフレについてまとめた記事↓

rokabonatttsu.hatenablog.com

 

 

◎貨幣数量説はヤバいって話

貨幣数量説というのは、

物価×生産量=貨幣数量×貨幣流通速度

で、貨幣流通速度が安定しているってやつ。(1990以降の日本を見れば、安定していないことはわかるんだけど、まぁここで言ってもしょうがない)

何がヤバいって、この恒等式が「貨幣数量が中央銀行によってコントロールされている」という信仰と結びつくと、「インフレ抑制のために貨幣数量を抑制しよう」って結論を導いてしまうのだ。どうしてヤバいのか?

需要の拡大は資金の借り入れ(=マネーストックの拡大)を伴うことが多い。緩やかなインフレや貨幣供給量の増加は、現代資本主義経済にとって自然な状態だ。にもかかわらず、需要の拡大(≒経済成長)と貨幣数量の抑制を両立しようとすると、政策金利(無担保コールレートとか。説明の便宜上、イールドカーブを除く)を上げる可能性が高い。金融機関同士の貸し付けの金利があがり、国債の利回りも上がりやすくなる(イールドカーブコントロール自体が政策目標になると、国債の利回り事態が当局の操作目標になる)。政策金利の高騰は、国債の利回りを通じて国債保有者(≒金持ち)の収入を拡大する可能性が高い。

一方で、金融機関は準備金を借りる(あるいは保有する)ときの金利が上がると、企業や個人への貸付の金利を上げる圧力になる。国債で運用するほうが収入が大きくなるなら、金融機関は融資する利点がなくなるからだ。企業の資金調達が難しいと、需要創出もその分難しくなり、生産力の維持拡大の必要がなくなり、失業が増えることになりかねない(もちろん株式会社ならか株式発行によって資金調達できるし、そもそも将来どの程度の利潤が得られるかが金利の支払い金額よりもかなり大きい不確実さを持つので、ローンの金利が上がったからと言って資金調達が困難になるとも限らないわけだが)。

失業と金持ちの収入を同時に上昇させかねないのだ。

 

 

◎優遇しなければ金持ちや大企業が海外に逃げる?問題は?

まず、金持ちが所得を移転するということについて。究極的には、中国のように、所得移転を厳しく制限することもできる。が、その必要はないだろう。所得の移動は、実物資本や実物資産の移動ではない。所得の流出が増えることの影響は、せいぜい通貨安程度であろう(金持ちが国内で稼いで外国の通貨に両替するなら、それは通貨安の話である)。通貨安になると、輸出企業が喜び、輸入企業が悲しみ、輸入物価が上がる。だが、金持ちの所得移転程度で為替に与えられる影響はかなり小さい。為替には、いわゆる投機マネーが最も強く影響するようで、ほかにも貿易などの影響もあり、所得移転の中の金持ち個人の所得程度では、その影響はたかが知れている。

続いて大企業が海外に逃げるという話について。本社や事業委託する子会社を海外に移せば、法人税を払わないですむという話がしたいのであろう。「本社や子会社が海外に移っても、市場が海外に移るわけではない。市場がある限り、そこでビジネスをしたい営利企業は存在する。逃げられたくなければ、本社や委託先が海外にある企業からは税をとればいい。一種の関税だ。関税の内側でビジネスがしたくて生産拠点を国内に残すなら、特に問題ないのではないか。」と言いたいところだが、究極的には国内から引き上げるぞという脅しを使って外交的な圧力をかけることもできるので、別途規制が必要かもしれない。中国共産党などは、その程度の悪知恵を働かせる能力を必ず持っている。ここは重要な考察ポイントだ。法人税の引き下げ競争には乗るべきかもしれないし、高い法人税を課しながら国内の生産力と安全保障を維持向上する方法があるかもしれない。

 

ちなみに、人件費が安いから発展途上国に外注というビジネスモデルは持続性を保証できない。というのも、先進国の機械化&ソフト開発によって、いずれ高確率で先進国が先に生産性を向上させ、すべての生産拠点を先進国に置く方が安くなるタイミングが来るかもしれない。コンテナの発明は運送費を激減させ先進国の産業空洞化を促したが、人工知能系の発明は機械にできることの可能性を飛躍的に伸ばし、安い人件費より機械を動かすほうが安い状況を作る。コンテナはすでに世界中に広く普及したが、人工知能による労働市場の変化は現在進行形であり、本格化はこれからだ。輸送に革命が起きない限り、あるいは発展途上国側が先進国側よりも先により高度な資本を得るというありそうもない事態が実現しない限り、先進国で生産したほうが安い現象が起こる可能性が高い。輸出産業を失ったとき、発展途上国は突然外貨獲得手段を失い、国内には無意味な生産能力しか残らず、その損失をだれにも保証してもらえない。だから、もし私が発展途上国のためを思うなら、輸出依存の経済政策は一時的に採用するものであって、輸出産業をいつ失っても大丈夫なように輸入代替産業を育てる努力をする。

 


◎政策目標に用いる指標は何が望ましいだろうか?

インフレ率よりも良い指標はないか?実質賃金上昇率とか、実質GDPとインフレ率の兼ね合いとか?利潤と賃金の分配の割合を目標にするとか?

 

何か一つの指標を政策目標にするのは、多様な状況が発生しうる、不可逆な変化を繰り返す社会において、良い方法ではないとも思う。臨機応変と議会制民主制は相性悪い、なんて言わない。

 

 


◎主な参考図書を最後に

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