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これが信用創造です。信用創造を理解したければ、最初に少しだけ日商簿記3級の勉強をお勧めします

最初に注意事項

信用創造を理解するのに最適なルートは、最初に複式簿記の知識をつまみ食いすることだ。仮に簿記の知識が全くないなら、日商簿記3級の本や動画、例えば下の動画リストを摂取して、少しだけ勉強することをお勧めする。「経済学はわかるけど簿記がわからない」なんて、「刺身作るのは得意だけど包丁の使い方は知らない」みたいなもんだ。簿記の表現に慣れたら、この記事の信用創造の説明も、理解していただけると思う。

 

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ただ、私自身、簿記をちゃんとは勉強していないので、知らない勘定科目も多い。ので、この記事では一部間違った勘定科目を使っているし、フローとストックを混同しているかのような書き方も一部している。ただ、信用創造と収縮を説明するのに、資産のプラス・負債のプラス・費用・収益・資産のマイナス・負債のマイナスを区別して計上できれば問題ないと考えているので、「説明意図が伝われば、語句が正確でなくても構わない」というスタンスをとりつつ、この記事を書いた。

 

 

信用創造と信用収縮

信用創造とは、原資を必要とせずに、何もないところから銀行預金を発行することである。信用収縮とは、(返済によって)銀行預金を消すことである。

信用創造と信用収縮をバランスシート(貸借対照表)で表現すると、こうなる。

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信用創造・信用収縮の説明

マネーストック(金融機関から非金融機関に供給された通貨の総量。何を通貨と定義するかによって複数の定義があるが、この記事では現金と預金の合計と同じになる。銀行が持つ現金(資産)や預金(負債)は、マネーストックに含めない。)水色をつけている。信用創造は、(「民間銀行」と「日銀に口座を持たない経済主体」の間の)預金の貸し借りによって発生し、債務の返済によって信用収縮を起こす。信用創造によってマネーストックが増加し、信用収縮によって減少する。「日銀に口座を持たない経済主体」が「民間銀行」から現金を借りるとき(そんなときが存在するのかどうかは知らないが)、現金の貸し借りは、信用創造をもたらさない。

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現金の貸し借りに伴うバランスシートの変遷

 

マネーストックは増減するものの、銀行預金が創造されたわけではないので、これを信用創造とは呼ばない。

民間銀行に対する現金の振り込みや引き出しも、信用創造・収縮をもたらさない。

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現金の振り込みと引き出し

現金という原資を受け取る代わりに預金を創造した場合、これを信用創造とは呼ばない。我々が現金をATMに入金することは信用創造ではない。(ついでに言っておくと、マネーストックも不変だ。)

 

非銀行同士の貸し借り

法律で、信用創造してよいことになっているのは銀行だけだ。信用創造を使えない非銀行が金を貸し借りする場合も存在する。信用金庫や消費者金融、ファンドなど。バランスシートはこのように変わる。

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非銀行同士の、預金の貸し借り

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非銀行同士の、現金の貸し借り

預金を貸し借りするときは、民間銀行の口座の残高が変化する。

現金を貸し借りするときは、取引に絡まない民間銀行は、当然、これと言って変化がない。現金は日銀の債務として流通している。非銀行の中には中央銀行に口座を持つ金融機関もある。そのような金融機関が非金融機関に現金を貸すとき、日銀当座預金の残高を減らして同額の現金を受け取り、受け取った現金を貸し出すこともある。

いずれも、原資のないゼロ状態から預金を生み出していないので、信用創造には該当しない。(ついでに言及しておくと、マネーストックも増減しない。)

 

経済学の教科書に書いてある「又貸し説」

マンキューなどのニュー・ケインジアンや、そのほかの新古典派系の経済学では、預金を貸し出すという概念が存在しないようだ。預金の貸し出しの説明を見たことがない。

ちなみに、マンキューには、現金の貸し出しの説明は存在した。こういう感じだ。

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経済学の説明する、現金の貸し出しと返済

間違っていない。問題はこの後で起こった。

「ある銀行が現金を貸し出し、借り手がそれを使って支払い、支払いを受け取った誰かがほかの銀行に預金した時、預金が増える。それが信用創造だ!」って説明も書いてあったのだ。準備率をいったん無視して説明すると、こういうこと。

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経済学が説明する、信用創造と信用収縮

「ほらね、又貸しで預金が増えたり減ったりしてるよ!これが信用創造だよ!」と言ってるのだ。確かに預金は増えたり減ったりするのだが、原資のないところでゼロから預金を創造したわけではないため、本来なら、これを信用創造といわない。(ついでに言えば、現金の融資と返済のタイミング以外で、マネーストックは増えていない。マンキューが言う信用創造と信用収縮のタイミングでは、マネーストックの増減がみられない。)

この説明のタチが悪いのは、「銀行は、自身が所有している現金より大きい額を新たに貸し出すことができない」「銀行は、所有する現金を減らさないと、貸し出しを増やせない」などと思い込ませかねないことだ。実際には、最大で、(所有する現金の金額)×(準備率の逆数)の預金を貸し付けることができる。

一番最初の、信用創造と信用収縮の説明と比べるために、もう一度張ってみる。

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信用創造・信用収縮の説明

経済学では、銀行が現金を貸し出し、それが巡り巡ってほかの銀行に預金されたときに信用創造が起こる。ことになっている。預金残高はその方法で確かに増減する。ただ、それは信用創造ではない。信用創造とは、現金などの原資なしに預金を発行すること、言い換えると、貸借関係を作るだけで預金を創造すること、である。

 

 

ここからは、銀行間の振り込みも含めて、信用創造を表現していく。

 

振込と銀行間決済を踏む、信用創造 の表現

準備金を現金と表現するなど、単純化しているものの、大枠として正しいはずだ。金額を(金額)という形で表現している。αとβはともに0より大きい想定。

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銀行間の振り込みと決済を挟んだ、信用創造と信用収縮の表現

預金の借り入れのタイミングでマネーストックが増加し、返済で減少する様子がわかる。ゼロから預金が創造されたので、預金の借り入れのタイミングが信用創造のタイミングである。借り手が預金で返済すると、預金の合計もαから0まで減少していることがわかる。マネーストックも同じタイミングで、αから0に減少している。

銀行が持つ預金の額を、銀行が保有している現金(準備預金)の一定倍率以下にしなければならないと定めたのが、世間でいう準備制度だ。現金(準備預金)は、財政支出によって民間の金融機関に供給され、徴税によって回収される中央銀行を含む金融機関同士で準備預金の貸し借りや取引をするとき、国債を含む債権の売買や債権を担保に準備金を貸し出すことによってそれを実現することもある

 

信用創造の黎明期を知れば、その本質が直感的にわかるかも

その界隈では有名な話、ゴールド・スミスの話をする。近現代の銀行は、ゴールド・スミスにルーツを持つといわれる。

ゴールド・スミスとは、その昔存在した職業、金細工職人を生業にしていた人たちのこと。地域的には、確か、イングランドかそのあたり。

金細工職人は高価な金製品を扱うので、立派な金庫を持っていたといわれる。商業で成功して金貨を大量に所有するようになった商人たちは、自分の金貨の管理に頭を悩ませていた。誰が思いついたのかはわからないが、「信頼できるゴールドスミスの金庫に金貨を保管してもらえばいいではないか」ってことで、ゴールドスミスの金庫に金貨があづけられるようになった。同じ金庫に複数人から預かった金貨を保管する場合、だれがいくら金貨を預けたのかが分からなければ困る。そこで預けた金貨の金額を記した手形を、金貨の持ち主に渡すようになった。

気づくと、手形自体が、まるで金貨と同じように、世間で流通するようになっていた。金貨は重いので、支払う人も支払われる人も負担が大きい。その点、手形は楽だったのだろう。金貨は金庫の中で常に一定以上の量が保管されるようになる。

こんな状況の中で、とあるゴールド・スミスが、歴史を変える金融革命を起こす気付きを得る。「手形を持つ人みんなが一斉に金貨を取りに来ることはないぞ」と。そこで、金庫の中の金貨を一部貸し出し、金利をとるビジネスを始めたのだ。誰にいくら貸したのかを証明する書類=借用証書を相手に書かせ、その分金貨を貸し出し、利子を取り始めた。貸し出した金貨は、巡り巡って金持ち商人の下に集まり、ゴールド・スミスのところに保管依頼にやってくる。ゴールド・スミスはこれを受け入れ、新たな手形を発行する。

やがて、金庫の中にある金貨の量をはるかに上回る手形が流通するようになった。ゴールド・スミスの革命はまだ止まらない。「手形が流通するのなら、最初から手形を貸し出して、金利を稼げばよくないか?」ってことで、手形を発行すると同時に相手に借用証書を書かせたのだ。金庫に保有する金の量とは関係なく、金利を稼ぐビジネスができるようになった。

この手形と借用証書の同時発生は、現在の銀行融資とそっくりである。銀行は、債権(借り手に書かせた借用証書)と同時に、債務として銀行預金を発行する。