好奇心の横断歩道を創る!

自分の思考をラバーダック・デバッグするためのブログ

AB-SFCモデルを作るための諸々の小手調べのために、SFCモデルを自作する様子(仮)

なぜAB-SFCを目指すのか

・なぜSFCモデルなのか
マクロ経済学の世界では、マクロ経済モデルは動学的確率的一般均衡モデル(DSGEモデル)が政治的な覇権を握っている。現在圧倒的多数派の学派と非常に強い結びつきを持っているからだ。多くのDSGEモデルは代表的個人からなり、おそらくすべてのDSGEモデルは、利潤や効用などを想定した関数を最大化するというモデルだ。(一般的な意味とは違い、経済学者が言う独特の意味で)合理的な期待を、すべての経済主体または代表的個人が持っていて、外生的なショックが加わるたびにその合理的な期待を修正する、ということになっている。
ただ、DSGEモデルの説明能力や予測能力は、その文献の多さにもかかわらず、かなり貧弱だ。よく例に挙げられる例を出す。金融危機の直前にも、「ゴルディロックス経済だ」という合意が、DSGEモデルを支える多数派の経済学派の学者の大半を占めていた。彼らは金融危機が間近に迫っていることを予測できなかったし、対策する必要を訴えることもなかった。それもそのはず。合理的な期待が前提の理論が優秀だと信じていたのだ。本当に危機が間近にあるのなら、それを予測する人が大量に表れるはずなのに、現実には誤差程度しかいなかった。だから危機なんて起こらない、と。
DSGEモデルのアプローチは、個々の経済主体に当てはまることは経済全体にも当てはまるに違いない、という信仰から抜け出すことができていない。加えて、景気変動の原因を外生的で予測不能な要素(何を外生的と判断するのかはかなり多様。技術水準や貨幣供給量は外生変数になりがち)に押し付けることしかできない。貨幣や通貨そのものがマクロ経済に与える影響の大きさにもかかわらず、貨幣や通貨の誕生から消滅までの一連の手続きを現実的なモデルに落とし込むこともできていない。これらの問題は、少なくともある程度は、DSGEモデルという枠組みそのものの持つ性質のせいで起こっていて、解消不能だと思う。
予測にあたって、経済理論と関係ない純粋に統計的なモデルを使うこともある。DSGEモデルよりも予測能力が高い、と主張する人もどうやら多い。私もそう思っている。ただ、純粋に統計的なモデルが経済の理解に役立つかといわれると、因果推論の役に立つことはあるだろうけど、政策を提案する根拠に使うのは対症療法・応急処置目的くらいだろう。
SFCモデルは、厳密な会計的整合性を担保する。負債は必ずほかの主体の資産と対になっているし、ストックはフローの累積になっているし、支払った金額と受け取った金額は常に等しい。会計的一貫性が保証されないモデルだと、本来発生するはずのない資産や負債が湧いてきて累積し、本来実現不可能なはずの現象が起こりかねないが、SFCモデルなら心配いらない。DSGEのような代表的個人の最適化された行動という仮定は、制度や不均一さが人の行動に与える影響を無視することになるが、SFCモデルでは合理的な期待や行動という仮定を必要としない。会計的なルールを守らせるのだから当たり前だが、貨幣や通貨の性質の再現にも適している。

・なぜABモデルなのか
人の行動は、経済学者のいう意味の合理的な期待や判断の結果ではない。もしも経済的合理性が現実的な説明だとしたら、薬物中毒になる人は自らそれを選択しているし、通勤時間に渋滞に巻き込まれて遅刻する人もその可能性があることを前日から知りながら遅刻している(渋滞の発生は外生的なショックだ、なんていうのならそんなことないんだけど、渋滞の発生すら外生的だというのなら経済理論は何も説明できませんと白状するようなものだ)。もしも経済的合理性が現実的な説明だとしたら、9割の確率で正しいと主張するなら本当に9割の確率が出るはずだし、母体から生まれてきたかったから受精卵になったはずだ。ナチスホロコーストを実行したのもドイツ人にとって合理的だったからで、ロシアがウクライナ侵攻したのもロシア人にとって合理的な判断だったことになる。
我々の行動原理は、合理性ではないのだ。そんなことはみんな知っている。
人の行動は、生まれ持った身体の機能に強力に依存している(合理的でいられないのは全知でも全能でもないからだ)し、学習能力の高い生き物なので、経験から学んで行動パターンを変えていく。社会的生き物でもあるので、人が作った仕組み自体が人の行動に大きな影響を与える。本能に加え、学習と個人及び組織間の相互作用が決定的に重要なのだ。ABモデルは、この点を表現するのに適する。例えば、経験則の多くを再現するという意味で出来の良い株式市場のモデルは、おそらく、ほとんどがABモデルだ。
金融市場の内生的な不安定性(ミンスキーっぽい話)を再現しようと思ったら、適応的市場仮説の要素を繁栄したABモデルが適するのではないかと思っている。また、価格交渉力を議論できるモデルを作ろうとして「不平等の進化的起源」という本のようなアイデアを組み込もうとすると、適応的市場と同様、適応の話をしなければいけないので、ABモデルが適していると思う。

・なぜAB-SFCモデルなのか
ABモデルは、適応、経路依存性の強さ、異質で不均等なエージェントの相互作用に深くかかわる現象をモデルにできる、ミクロとマクロの両方を同時に説明する理論を再構築する可能性がある
会計的な正しさからみると本来存在してはいけない資産や負債が、時間とともに蓄積する可能性があるモデルは、存在しないはずの支払い能力を発生させたり、存在しないはずの返済義務とそれに伴うデフォルトなどの影響を起こす。SFC化していれば、その点の心配はいらない。
AB-SFCモデルでは、エージェントというミクロの立場から行動方程式を書くことになる。部門で分けるマクロ寄りの時とは、適切な行動方程式が違う場合が多いはず。

なぜJuliaなのか

・速い。C++やFortranとあまり変わらない速度
・算数が得意。最初からそれを得意分野にしよとして作られたんじゃなかろうか
・書きやすい。記述が直感的で、学習コストが低め。TeXみたいな書き方でギリシャ文字にも対応している。パラメータをギリシャ文字で書く文化がSFCモデル界隈にはあるので、なかなか助かる
・ライセンスが緩い
ハッカーや計算物理学者からも好かれる言語(になる)と私が勝手に信じている。優秀な人たちが集まるのなら、プログラミング言語の性質上、モジュールの整備など言語自体の向上が進みやすいはずだと思っている。私にはできないことなので完全に他力本願。

常人離れした優秀な人がAB-SFCに興味を持ってくれたら、私よりはるかにハイペースでハイクオリティのアウトプットが得られるんじゃないか、その方向に加速していってほしい、って願望が混じってる

SFCモデル

最初はなるべくシンプルに作って、徐々に現実らしさを追加していくことになりそうなので、バージョン別に記録しておくことにする

Ver. A

カリブレーションと推定についての勉強が進んでいなくて、2023年9月25日時点ではどうにも。
まずはSFCモデルの最初の教材を目指す例の記事にまとめながら、試していきたい
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時間の添え字の慣習など、直したいことが多くなってきたので、この制作中のモデルは捨てる。

Ver. B

Ver. A では、添え字の慣習を破って作ってしまったり、株式の価格変動が無いせいで金融機関が株式を保有しなくなったりするので、新しく作り直した。
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一応は完成させた(2024年3月28日)。ただ、行動方程式の変更など、改善したい点は多い。

条件を変えつつシミュレーションしてみた結果をこちらの記事でまとめた

rokabonatttsu.hatenablog.com


Ver. Cを作るときの参考にする

Ver. B.1

Ver. B を拡張。

  • 公的固定資本形成の追加
  • 統合政府部門の資本ストック
  • 消費財生産企業と資本財生産企業の分離
  • 資本財価格と消費財価格の分離
  • 自社株買いと新規株式発行を追加
  • 価格設定方法をPKに寄せた

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2024年4月6日に、一応SFCモデルになった。ただ、現状挙動が変。修正方針のメモをキャプチャしておく(2024年4月6日)

Ver. C

Ver. Bを参考にするつもり。
まだ完成に程遠いので、リポジトリだけ張っておく。
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Ver. X

制御理論が得意な人たちに寄せて、連続時間化して、基礎的な現代制御理論を使える形のベクトルと行列の式で書くバージョンも、作ってみたい。かなりシンプルなのを。現代制御理論の文法にのっとったシミュレーションをするためには、多分(?)、行動方程式を線形結合で書かなきゃいけない。あと、この方向性は、AB-SFCモデルへのステップにするつもりはない。SFCモデルの教材を目指す例の記事を書くために読んでいる論文を、理解するために、現代制御理論を少し勉強しているところだから、ついで。良質なインプットのためにはアウトプットが必要だから。
2023年11月7日時点では、プライオリティは低い。優先順位は、
1,金融市場の関係の行動方程式と投資や技術水準関係の行動方程式の、よさげなのを探すか考案する
2,カリブレーションなどパラメータの値の決め方についての勉強
3,ミンスキーっぽい議論のためのAB-SFCモデル、技術革新周りの議論のためのAB-SFCモデルを作る
4,現代制御理論の文法にのっとったシミュレーションを行うSFCモデルを作る
ってところ。2と4を進める過程でSFCモデルの教材を目指す例の記事が大幅に加筆修正できることを期待している。誰か日本語で書いてくれないかな。

AB-SFC化するための、関連の仕事

金融市場

金融市場のABモデルを作ろうとしているところ。SFCモデルではないものの、エージェントにとってのストックとフローの関係の整合性はとっているつもりだし、金融市場における売買については、支払った金額と受け取った金額が一致することも保証しているはず。SFCじゃない要素は、各エージェントにヘリマネ配ってて、税金の受取手を書いていないってところ。行動方程式を考えるにあたってよい資料になればうれしいと思っている
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2023年9月25日現在、預金と株式でポートフォリオを組む投資家を想定したモデルしかない。資産の種類は預金と株式と国債(株式市場と国債市場を作る)で、投資家だけでなく民間金融機関まで含む想定のモデルを、新しいjupyter notebookで作る予定。国債市場はイールドカーブコントロールを含める。紙くずにならない保証があって、償還期限が来るといったん預金と交換(投資家は民間銀行の口座、金融機関は中央銀行の口座)して、おそらくすぐに同額の国債を新たに買おうとする。資産としての性質が株式と違うので、国債の値動きはイールドカーブコントロールなしでも株式市場と異なるように、行動方程式を作る必要がある。

AB-SFCモデルにおいて再現したい、定型化された事実について

これと内容を同期させたい。あるいは別記事に切り出してリンクするか。
rokabonatttsu.hatenablog.com

分布関係の、定型化された事実について

企業規模の分布、家計の所得の分布など
rokabonatttsu.hatenablog.com