この記事で行うのは証明ではない。用いたモデルはあくまでモデルであって、現実ではないからだ。それから、外生的に与える歳出(名目)と内生的に与えられるGDP(名目)や税収(名目)や消費(名目)や投資(名目)が概ね比例する、みたいな現象は、ストック・フロー一貫モデルを作っているとあまりにもよく見られるので、ここでは触れない。何かあれば追加していくかもしれない
名目GDPがほとんど変わらない中で政府債務残高対GDP比率が上昇する様子の再現
「将来不安が高まるほど消費性向が下がり、可処分所得から消費に回す割合が下がり、税収が減り、分母の縮小と分子の拡大の両面から、政府債務残高対GDP比が大きくなる」「所得格差が大きくなるほど、消費性向が下がり、税収が減り、政府債務残高対GDP比が大きくなる」などという効果が現実にはあるはずだと個人的には思っているが、今回のモデルはその効果までは含まない。それでも、昔は政府の支出を積極的に増やしていたが最近はほとんど一定、という日本のような状況下で、政府債務残高対GDP比率が時間とともに上昇していく様子を再現する
使ったSFCモデルはこれ
github.com
モデルの詳細を知りたい方はこちらへどうぞ。
モデルがまだ不出来なので、物価がやたらと規則的かつ大きな振動を示すが、そこは差し引いてみてほしい
パラメータは、物価不変の場合に政府の支出(公務員給与を含む)を前期比で概ねづつ増やす、という意味を持つ。横軸t=50のタイミングで、 から に値を変え、バブル発生以前から2024現在までの様子をイメージした。は、供給能力の成長率を少し上回るような政府支出増加率を目標にする水準。
見てわかるとおり、新しい水準に移行するt=100のあたりまで、政府の支出が増加しなくなったタイミングt=50から政府債務残高対GDP比率が上昇していく。自然言語的な解釈をすれば、物価がコンスタントに上昇している間は、フローの名目値が上昇する分、政府債務残高が実質目減りする圧力がかかっている一方、政府の支出をほぼ一定にして物価がほとんど不変になったら政府債務残高の実質目減り圧力がなくなるから。かな。日本では、第二次世界大戦後しばらくインフレ率と財政支出成長率が高めの時期を経験し、バブル崩壊以後はインフレ率と財政支出成長率が低めで推移している時期を経験しているので、最近の日本で政府債務残高対GDP比率が上昇していく様子を再現していると思う。
定期的に振動しているのは、主に物価と投資が定期的に振動していることによるもの。
他にもグラフは生成されているんだけど、張るの面倒くさいのでパス。
債務残高対GDP比率と、GDP成長率(単年ではなく中期)の、負の相関関係
共通通貨や外貨を国内で流通させず(少なくとも租税単位に用いず)、固定為替制度を採用しない国については、「債務残高対GDP比率が高いからGDP成長率が下がる」という主張は、良くてほとんど関係ない、悪ければ完全な嘘だ、と思っている。では、債務残高対GDP比率とGDP成長率(単年ではなく中期)の負の相関を、どう説明するのか。
上で使ったモデルは、推移をみる分には振動していても言いたいことは何とか伝わるが、これから作りたいのは散布図であり、その振動が決定的に影響を与えかねない。ということで前に作った解析的に解けるかなりシンプルなSFCモデルを用いる。
rokabonatttsu.hatenablog.com
このモデルにおいて、tが十分大きいとき、
ここで仮に として、唯一GDP成長率が収束する値に影響を与えるパラメータ を動かしながら、横軸=債務残高対GDP比率が収束する値、縦軸=GDP成長率が収束する値で、散布図をプロットしてみると、
つまり、それぞれの国ごとに異なる財政支出成長率で政府支出を拡大しているとき、政府債務残高対GDP比率とGDP成長率には負の相関が現れるということだ。もちろんこのモデルは物価水準を定義しないし、そのほかほとんど最大限といえるレベルで簡略な記述を行ったモデルなので、そんな現象は現実には起こらないのでは?という批判はもっともだが、私の直感はこのモデルの結果を現実の解釈に使っている
ちなみに蛇足だが、政府債務残高対GDP比率が に収束していくということは、現実の経験則と同じく政府債務残高がマイナスに収束しないのであれば、モデル上では が要求される。このとき、消費性向の増加(の増加)が政府債務残高対GDP比率を下げ、税率の上昇(の増加)が政府債務残高対GDP比率を下げる。国ごとに政府債務残高対GDP比率が大きく異なる位置に収束しようとしているように見えるのは、政府支出増加率だけでなく、例えば日本人が消費性向が低い貯金大好き民族だからだとか、税率が高いノルウェーだからとか、そういう理由かもしれない