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ピーターの法則と、組織の生産性の関係について、前提条件を変えつつシミュレーションしてみた結果のメモ

 

要約とか前提とか問題意識とか

要約

成果を上げた人を昇進させる制度の運用によって、ピーターの法則が組織の生産性を下げないための条件は、

・一つの立場で優秀な人が、別の立場でも優秀な傾向がある

・才能が生産性に与える影響が、一定以上の大きさである

・偉い立場の人ほど、組織の生産性に強く影響を与える

がすべてそろうこと、かもしれません。また、これらの条件が満たせなかったとしても、多くの立場で新人を採用することで、組織の生産性が改善される、かもしれません。

 

問題意識

ピーターの法則は、一見、成果を上げた人を昇進させる制度だと組織が非効率的になるかのような印象を持たせるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。この記事では、

・「成果を上げた人を昇進させる制度」は、どのような前提条件の下で組織を効率的にできるのか

・「成果を上げた人を昇進させる制度」が組織を非効率的にする条件下では、どのような昇進制度が合理的か

などといったことを考えるときの参考資料になりそうなシミュレーションの結果をメモしておきます。

 

調整する前提条件の一覧

①ある立場で高い生産性をたたき出す人が、ほかの立場でも高い生産性を発揮する傾向の強さ。「共通の才能」が存在しない場合と、才能の分散の64%標準偏差の4/7が「共通の才能」によるものとする場合の、2パターン。

②「偉い人ほど組織の生産性に大きな影響を及ぼす傾向」を、どの程度強くするか。どの立場も組織の生産性に与える影響の大きさが同じ場合と、一段階昇進するごとにsqrt(2)倍になる場合と、一段階昇進するごとに2倍の影響を与える場合の、3パターン。

③生産性の差がどの程度才能の差で説明されるか。才能の差の影響が小さい場合と比較的大きい場合の、2パターン。

 

シミュレーション内容について

①②③の前提をそれぞれ独立に選択し、2×3×2=12通りの条件下で、

・生産性の高い人を昇進させた場合

・ランダムに昇進させた場合

・生産性の低い人を昇進させた場合

・その役職で一番長く仕事している人を昇進させた場合

の組織の生産性を比較してみます。なお、簡単のため、

・組織の生産性=個人の生産性の総和

・個人の生産性は正確に観測される

という非現実的な前提を採用します。ほかにも、

・その立場における個人の生産性=個人のその立場に求められる才能/(1+exp(-その立場の経験時間/定数))

ということにします。同じ立場を長く経験するほど高い能力を発揮するようになり、その能力の限界が才能で規定されます。また、最初はその立場の才能の半分の能力を発揮ます。

才能=1の立場における、経験時間と生産性の関係
縦軸=生産性、横軸=経験時間

あと、辞職や退職、新規雇用に該当する要素もシミュレーションに含まれているので、組織の生産性が上がり続けることはありません。組織の人数は一定です。

 

比較

条件LMNという表記を定義します。

Lは「共通の才能」の有無を表し、L=0のときは「共通の才能」がない条件、L=1のときは「共通の才能」が才能の分散の64%を説明できる条件です。

Mは「偉い人ほど組織の生産性に大きな影響を及ぼす傾向」の強さを表します。M=0のときは「偉い人ほど組織の生産性に大きな影響を及ぼす傾向」が存在しない条件、M=1の時は「偉い人ほど組織の生産性に大きな影響を及ぼす傾向」が中程度の条件、M=2のときは「偉い人ほど組織の生産性に大きな影響を及ぼす傾向」が強い条件です。

Nは生産性に才能が与える影響の強さを表します。N=0のときは才能が生産性に与える影響は弱い(生産性に経験機関が強く影響する)条件で、N=1のときは才能が生産性に与える影響が比較的強い条件です。

例えば、条件001とは、「共通の才能」がなく、「偉い人ほど組織の生産性に大きな影響を及ぼす傾向」が存在せず、才能が生産性に与える影響が比較的強い条件、です。

 

個人にランダムに役職を割り振り、無限大時間勤続させたとき(才能の限界の生産性を発揮した時)の組織の生産性が約1になるような正規化を行っています。

条件000

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

生産性の低い個人を昇進させる制度が最も組織の生産性が高く、続いてランダムに昇進させる制度の組織の生産性と続きます。ピーターの法則の影響が露骨で、生産性の高い人を昇進させる制度や、役職面で完全年功序列な制度が、組織の生産性を損なっているようです。

一つの立場を一定以上の期間経験しなければ昇進できない制度にすると、

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

 

新人を、最下層に多めにしつつ、さまざまな階層に配置する制度に変えると、こうなりました。

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

生産性の低い人を昇進させる制度以外は、新人を様々な立場に配置することで高い生産性を発揮するようです。新人を最初から「偉い立場」にも採用することで、1,昇進自体が少なくなり、2,一つの立場で長く経験を積むことで生産性が上がり、3,ピーターの法則でいうところの無能の立場に収まる確率が下がるため  だと思われます。

 

条件001

条件000よりも、才能の有無が生産性に与える影響が大きい場合です。

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件010

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件011

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件020

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件021

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件100

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件101

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件110

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件111

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件120

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

 

条件121

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から

組織の生産性の推移
新人は全員一番下の立場から
一つの立場を一定以上経験しないと昇進できない場合

組織の生産性の推移
新人を、最下層に多めに、さまざまな階層に配置

生産性の高い人を昇進させる条件が、やっと成果を上げました。おめでとう!

 

結論みたいなもの

いろいろと非現実的な前提を置いたうえでの話ではありますが、

成果を上げた人を昇進させる制度が組織の生産性にプラスになるのは、

・昇進して仕事内容が変わっても有能な人は有能であり続ける傾向

・昇進すればするほど組織の生産性への影響が大きくなる傾向

・才能の有無が仕事の成果に与える影響が一定以上

がすべて成立している場合、ということになりました。きわめて直感的ですね。また、これらの条件が満たせなかったとしても、多くの立場で新人を採用することで、組織の生産性が改善される、かもしれません。