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イノベーションのジレンマでわかる、政府の投資支出が破壊的イノベーションを促進する理由

 

イノベーションのジレンマについて(あるいはミクロ経済について)

破壊的イノベーションとは

著者クリステンセンによる有名な著書「イノベーションのジレンマ」では、破壊的イノベーションなる概念が用いられます。

破壊的イノベーションとは、一言でいうと、「上位互換のサービスの生産に、これまでと大きく異なる手段を使う、というイノベーション」のことです。破壊的イノベーションのポイントは、それまで支配的だったノウハウが役に立たなくなるという点です。

破壊的イノベーションの対になる概念として、持続的イノベーションがあります。既存の手法と似た生産方法を改善することで、サービスを向上するイノベーションのことです。

 

 

優良大企業が、時に新興企業に打ち負かされる理由

既存の手法と似た生産方法を改善する時続的イノベーションでは、既存の大企業の方が優れています。何しろ、ノウハウの蓄積が圧倒的ですからね。ではなぜ、資金や人材の豊富さで有利な優良大企業が、新興企業(ごとき)に敗れることがあるのでしょうか?「イノベーションのジレンマ」はそのへんを説明する書籍です。

クリステンセンによると、顧客の声をサービスに反映し、利益の最大化を図る優秀なマネジメントこそが、優良大企業が新興企業に打ち負かされることがある原因だというのです。以下にその詳細を述べます。

 

破壊的イノベーションと、優良企業が新興企業に負けるカラク

新興企業に限らず、企業はときどき、破壊的イノベーションを起こします。破壊的イノベーションと言うくらいですから、それ以前の手法をいくら改善したところで、いずれは追いつくことができなくなります。

新興企業はしばしば、利益率が低くて小規模な市場で得たノウハウを転用し、「優良大企業が市場シェアを占める、大きくて利益率の高い市場」を乗っ取ることがあります。過去にそのような例が多く観察されてきました。小さくて利益率の低い市場は、大企業に「参入の価値がない」と思わせるため、新興企業が育ちやすいのです。優良大企業の優秀なマーケティング戦略は、利益率が高くて大きな市場のシェアの維持拡大を目指すため、利益率が低くて小規模な市場で発生する破壊的イノベーションを先導できないのです。

もちろん、利益率が高くて大規模な市場で破壊的イノベーションを起こし続ければ、新興企業に負けることなどないのかもしれませんが、現実にはそうはいきません。

例えば一つの企業の内部に「破壊的イノベーションで手に入れたノウハウを使うグループ」「既存のノウハウを使うグループ」があったとします。「破壊的イノベーションで手に入れたノウハウを使うグループ」「既存のノウハウを使うグループ」のもつ市場シェアを奪おうとすると、社内政治力の強い「既存のノウハウを使うグループ」「破壊的イノベーションで手に入れたノウハウを使うグループ」を衰退させるという、人間味あふれる現象が起こったりします。

また、大企業が既存の製品を置き換えるような商品や技術を導入するのは、さほど得なことではないので、モチベーションが相対的に低くなりがちですが、新興企業がこれまで参入していなかった市場に商品を出した場合、既存の商品の置き換えではない分、利益が出しやすく、モチベーションが相対的に高くなりがちです。

そもそも、破壊的イノベーションを起こす技術は、事前にそうだと分からない場合が多いです(事前にわかってたらみんな取り組んでとっくに実現している)。「自らの持つ市場で役立つ破壊的イノベーション」を起こす技術を開発しようとするとうまくいかない可能性が高いのです。「手元の技術を転用したら、破壊的イノベーションを起こせる市場」を探す方が簡単、ということがあるのかもしれません

 

マクロ経済について

自国通貨を持ち、変動為替相場制を採用する先進国の政府は、必要に迫られて財政破綻する可能性は無い

「自国通貨を持ち、変動為替相場制を採用する先進国」には、日本・アメリカ・イギリス・オーストラリア・カナダ・スウェーデンなどが当てはまります。

自国通貨を持つ変動為替相場制を採用する先進国では、財政破綻(=強制的な債務不履行や通貨が原因で起こる悪性のインフレ)の危険は、外貨建て債務を発行せず、戦争やクーデターなどがない限り、ありえません。その理由は、

三橋貴明ブログYoutube

反逆する武士

・望月さんの図解入門ビジネス 最新 MMT[現代貨幣理論]がよくわかる本

・シェイブテイルさんのMMT(現代貨幣理論)で解ける財政問題: 目からウロコの解決策

などなど、情報はたくさんあるので、各自勉強してください。

とにかく、財政破綻のリスクがない以上、公的部門は「発注しすぎ」にならない範囲(資源や労働力や資本などの実物資源が不足しすぎない範囲)において、予算を気にせず自由に技術や科学に投資することができます。

 

不確実性の高い、科学や技術の基礎研究は、公的部門向きである

営利企業が研究開発を行う場合、投資費用を回収できるかどうかが非常に重要です。いくら素晴らしい技術を開発したところで、サービスの生産につながらずに赤字倒産してしまっては、生き残ることができません。野心的であればあるほど、その技術や科学に対する投資は、「赤字で構わない公的部門」が適するのです。実際調べてみればわかりますが、現代の先進国で普及しているサービスは、その基礎をDARPAやらなんやらといった政府の研究機関や、公立・国立大学の研究に依存しています(いちいち例示しませんよ?)。0からすべてを民間が作った技術なんて、おそらく存在しません。

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⇑ めっちゃ良い動画。 

 

マクロ経済の発展と、破壊的イノベーションと、公的投資支出が交わるところ

不景気は民間発の破壊的イノベーションを抑制する

不景気は、民間発の破壊的イノベーションを抑制します。新たに技術やノウハウを生み出して破壊的イノベーションを起こそうとする場合を考えてみましょう。破壊的イノベーションを起こす研究開発はその多くが不確実であり(確実ならみんなしてとっくにやって成果を出している)、投資費用を上回る収益を上げる見込みが持てません。大きな投資リスクを伴うのです。リスクを負う余裕とメリットがともに小さい不況時には、民間企業が破壊的イノベーションを成し遂げるのは、とても難しいのです。

技術の発展が高度経済成長期の源泉だというイメージを、多くの方がお持ちと思います。確かにそう言う側面はあるでしょう。それと同時に 逆もまた真なり です。技術進歩→経済成長 だけでなく、 経済成長→技術進歩 でもあるのです。

 

公的投資支出は破壊的イノベーションを促進する

非営利団体の知的活動は、破壊的イノベーションを促します。投資費用の回収という制約なしに、新しい技術や科学やノウハウを開発するからです。赤字でも気にしないというのが、民間企業にはない強みです。

よく、「技術は軍事から民間に降りてくる、残念だけど戦争は技術を発展させるのだ」なんて言われていますが、単に、金に糸目をつけずに投資しているからです。民間部門にとっては資金不足が研究のネックになることが多いですが、公的機関は、予算さえつけば、赤字を気にせず技術開発ができます。日本はそうでもないですが、アメリカ(や中国)の軍事予算の規模はえげつないですからね。旺盛な需要がイノベーションをもたらすのであって、戦争そのものはイノベーションをもたらしません。因果関係を勘違いしないようにしましょう。

 

イノベーションのジレンマの解決策・回避方法、ミクロとマクロの立場より

一企業がイノベーションのジレンマを乗り越える方法、その定番の一つは、新しい子会社をつくって、ベンチャーとして活動するというものです。大企業の一部門として活動するときの、社内政治などのしがらみを避けるとともに、親会社から資金提供を受けて新たな技術開発にいそしむことができます(理想論)。

経営者や株主にとっては、会社が利益を上げられなくなるのは大惨事かもしれません。しかし、一従業員にとっては、会社が赤字でも給料が払われるなら問題ない、あるいは、解雇されても再就職先があれば問題ない、といったところでしょう。好景気を維持し、低い失業率を維持している限り、イノベーションのジレンマによって市場を奪われ、倒産する企業が相次いだところで、社会全体で見れば大した問題ではありません。

 

 

蛇足。2021年から見た、中長期的な未来の話

その原因はディープラーニングか何だか分かりませんが、資本が人を介さずに資本を生産するようになり、無限自己増殖する資本が商品を生産し、技術的失業のペースが加速し、電脳化していない人にできる生産活動はすべてコンピュータでできる社会が、いずれ来るかもしれません。と言うか、多分来ます。議論が割れるのは、それがいつなのか、でしょうね。自由市場原理に任せて放置すれば、そこには想像を絶する格差社会が訪れることでしょう。「ゼウスたちの貴族社会と、生産活動のために働かなくなった平民社会の同時発生」あるいは「すべての人がコンピュータのようなものと融合&一体化し、人のインターネットが世界を覆う。個人の概念は消えるか、どこまでが個人の範囲かを問う哲学が流行る」といったところ。

そんな時代に備えて、仕事をしないと人間ダメになるから生産者として無意味と分かりつつ公共部門が人を雇うのが良いとか、ベーシックインカムが良いとか、貨幣を使う経済を捨てたほうが便利とか、格差社会は民主主義と馴染まないから民主主義のために共産主義を導入すべきだとか、”売れる商品を生産できる資本”を所有しない人間は消滅させるべきとか、人間が便利さを追い求めた結果いつの間にか人間は絶滅するとか、そもそも個人を最小単位とした社会の慣習が消えるだとか。議題はいくらでもあるのかもしれませんね。私などは、良い悪いではなく、”ハードウェアを有機物に限定されない新しい生命体”が爆誕して、いつの間にか人間もその一部に融合しちゃう未来が順当かな~ なんて思ったりしますけどね。ムーンショット計画なんて生易しいもので終わるはずがないと思いますよ。うん。