認識することの力を知る彼等は、認識されることを嫌う。

ナショナリストによる勉強と趣味と活動の記録。グローバリストは大嫌い。

財政主権と通貨と生産力の関係について

目次

 

はじめに

この記事で考察すること

 財政主権と為替制度、財政主権と通貨の主権、国家権力とインフラの間には、それぞれ強い結びつきがある。というのが、この記事の主張。現代社会の仕組みの一側面を説明できると思う。

この記事のキーワード

需要 供給力 通貨 租税貨幣論 貨幣 法定通貨 基軸通貨 税金  発展途上国 先進国 固定為替相場制 変動為替相場制 為替 財政主権 権力 予算制約 通貨発行権 金本位制 インフレ デフレ インフレ率 インフラ 

 

重要かつローカル?な単語の定義

 この記事で使われる単語のうち、重要であり、しかも、この記事あるいは一部のコミュニティでしか共有されない可能性が高い定義をする言葉を、一覧しておく。日本語が通じる限りどこでも同じ定義になりそうな言葉は、ここでは触れない。

 

貨幣

 債務と債権の記録。および、その地域で広く利用されている債務と債権の記録の仕組み。難しい言い回しになってしまったが、現金・預金・小切手・手形だと思ってもらえば十分だ。(ほかにもありそうだけど、すぐには思いつかなかった)

 10円玉などの硬貨に関しては、債務と債権の記録という定義には当てはまらないが、紙幣や預金と同じ単位を名乗るものとして、例外的に貨幣に含むことにする。

 貨幣の定義を債務と債権の記録としたことに関しては、違和感がある方も多いのではないだろうか。違和感が拭えない方は、こちらの動画を最後までご覧になるか、現代貨幣理論を勉強してください。

www.youtube.com

あくまでこの記事における定義なので、定義に対する異議は受け付けない。

 

通貨

 一般に流通する貨幣。政府や金融機関の間でしか流通しない日銀当座預金などは、ここでは通貨とは呼ばない。マネーストック(M3)=通貨、くらいの感じでOK。

 

インフラ

 この記事におけるインフラという言葉は、以下の2つの意味を満たす。

・ほとんどの人が同じモノやサービスを直接的あるいは間接的に使っている

・そのモノやサービスが生活の基盤となっている

 例えば水道を使う場合、水道そのものが直接的なサービスと定義される。水道を整備するための道具を作った仕事や、水道管の材料を作った仕事などは、間接的なサービスと定義する。サプライチェーンの消費段階は直接的なサービス、サプライチェーンの消費以外の段階は間接的なサービス、と思っていれば問題ないはず。生活の基盤になっているとは、それ抜きでは露骨に生活水準が下がるサービスのこととする。

 2021年現在だと、水道・道路・電力網などはもちろん、洗濯機や住宅もインフラであり、スマートフォンもギリギリ、当記事ではインフラに含まれる。一般的な意味のインフラよりも広い定義になると思う。

 

 

 

考察

貨幣がその地域で流通する理由について

租税貨幣論だけでは、通貨の説明としては不十分だ

 通貨がその地域で流通する理由の考察。これを行うのは、私が「租税貨幣論に通貨の流通の根拠を一任していることこそ、MMTの間違いだ」と思っているからだ。似たようなことを考える方はいらっしゃるらしく、例えば、このアマゾンレビューや、こちらのnoteのような主張がそれを示す。(なぜかお二方、租税貨幣論への敵意をむき出しにしているように見える。私だけ?) アマゾンレビューやnoteの主張内容には、ごもっともだと思う部分がかなり多い。しかし、租税貨幣論抜きでは、ほかならぬその法定通貨の単位が流通していることを説明できない。「トヨタが定めた単位『ティヨタ』が日本で広く使われたっていいじゃないか。なぜ日本政府が定めた日本円なんだ?」という疑問に答えるのは、租税貨幣論が最適解だと思う。では事実はどこにあるのか。私の答えは、

「両方とも正しい」

であり、

「両方とも不完全」

であり、

「両立する」

だ。

Q:担保とは何ですか?  A:将来にわたって期待される需要です

という認識を共有すれば、両方とも正しく、両方とも不完全で、両立すると考えられるのだが、これだけではあまりにも説明不足だ。後述の内容を隅々まで読んでいただければ、多分、ご理解いただけるかと思う。説明能力に自信が無いので、保証はできない。マジすんません。ちなみに、通貨の担保は国債や法律や政府の権力であり、国債の担保はその国の生産力である、という説明は、こちらの動画でもなされている。

0:00~ 通貨の担保は国債や法律や政府の権力

7:18~ 国債の担保はその国の生産力

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物々交換の円滑化説は間違い

 通貨が流通するのは、不便な物々交換を円滑化するため、ではない。物々交換の円滑化説を否定する理由は単純で、「一つのコミュニティの内部で物々交換をベースに成り立つ経済は、人類史上確認されていない」という、文化人類学?の研究成果があるからだ。よそのムラ・都市・国との交易においての物々交換は確認されているが、一つのムラ・都市・国の内部の取引においては、狩猟採集民のようにコミュニティ全体で共通の財産を分け合うか、”債務と債権の記録=またの名をツケ”としての通貨を使うだ。それ以外の通貨の起源は確認されていない。有名どころだと、メソポタミア文明の粘土板だろうか。商品貨幣論者乙!

 

時代や地域を問わず、貴金属が貨幣に用いられた理由

 歴史上、世界各地でなぜか金属が貨幣に使われた。形を自由にできる&劣化しないという、情報の保存の機能を持つ貨幣のハードウェアとしての要請を、貴金属は満たしていた。だからこそ、貴金属が各地で貨幣として使われた、というのが一つ目の側面。貴金属が貨幣のハードに選ばれた理由は他にもある。「各時代・世界各地の権力者が貴金属を求めたため、古今東西に貴金属の需要があった」という側面だ。いつの時代もどの地域でも、権力者は光る装飾品が好きらしい。権力者が集まるコミュニティでの贈与交換のほかにも、賄賂としても使えたはずだ。(法的に禁止されていたとしても)貴金属を含むコインを鋳造しなおすくらい、やる人はやる。

 「民主制都市国家の政府=ポリスが、敵対する特権階級を意図的に嘲笑する為に、権力者の間で贈与交換される貴金属を貨幣にして、一般市民の間で流通させた」というエピソードも残されている。

 近世までは、貴金属が広く貨幣として用いられていた場合でさえ、「貴金属が貨幣の価値を担保するのではなく、貴金属に刻まれた模様(=情報)が貨幣の価値を決める」という考え方が主流だった。いわゆる”名目主義”である。貨幣には、例えば木簡のように、金属以外の媒体も広く使われていた。現代風に言えば紙幣といったところか。名目主義だから、情報の保存や伝達に都合が良ければ、媒体は何でもよかった。近世までは。ところが近代以降、貴金属が通貨の価値を担保するという考え(=”金属主義”)が広まった。なぜだろうか?

 

金属が通貨の示す価値を担保するという”金属主義”の源泉

 近世から近代にかけて、名目主義から金属主義に覇権が移動した。以下のような歴史的経緯からだ。

 時の権力者は、新たな硬貨を鋳造する際、貴金属の含有量を時間とともに減らしていった。貴金属の所有量に限りがある一方で、貨幣の流通量を増やそうとした結果であろう。新しい硬貨ほど貴金属の含有量が少ない、という状況になった。貴金属含有量が少ない新しい硬貨は、古い硬貨と比べて(少なくとも同じ体積ならば)軽くなる。

 また、硬貨は(特に柔らかい金貨がそうだが、)使用されればされるほど、端から欠けてしまったり、硬貨の端を意図的に削って金儲けする人がいたりして、硬貨は時間とともにその体積を小さくしていった。硬貨は時間とともに小さく、軽くなる。

 事態を見かねた権力者は、硬貨の端を削って金儲けされることを防ぐべく対策をとるようになった。税金を集めるときに硬貨の重さを測り、より重たい硬貨を受け取るようになったのだ。軽すぎる硬貨を納めた者は、硬貨を削ったと勘繰られるリスクを負うことになる。軽すぎる硬貨を納めれば、硬貨の端を削ったと思われて重罪に処されかねない。そう悟った人々は、できるだけ重たい硬貨を収めようと努力するようになった。その一方で、国王は新たな硬貨を鋳造する際、貴金属の含有量を減らしていった。

 市場では、貴金属含有量の違いに起因する、重たい硬貨と軽い硬貨が入り混じることとなった。納税者は、「重たい硬貨を納めなければ重罪に処されるかもしれない」と考える。権力者は気まぐれだ。なんとしても重たい硬貨を手に入れたい。重たい硬貨とは?そう、貴金属の含有量が多くて端が削られていない硬貨である。人々の間では、硬貨の重さをかなり正確に測ることができる秤が出回り、皆が重たい硬貨を欲しがるようになった。

 また、近世から近代に移る時代は、国際貿易が盛んになった時代、いわゆる重商主義が台頭した時代*1でもあった。貿易が増加したのはいいが、貿易の相手が住む地域には、自分たちの住む地域の権力者の権力が及ばない。決済で同じ単位の通貨を使えないのだ。貿易相手への支払いは、鋳造しなおせば貴金属を得られる硬貨で行われた。なぜ貴金属かといえば、どこの地域の権力者も、大体貴金属が好きという例のアレのせい。物々交換そのものである。

 税金の支払いのために皆が重たい硬貨を欲しがり、貿易では貴金属を含む硬貨が使われる。そんな状況を見た”偉い人”は、「貴金属の価値が通貨の価値を担保している」という金属主義を信じるようになった。実際貴金属がもてはやされていたのだから、当然のことかもしれない。ともかく、”偉い人”は、「通貨の起源は物々交換の円滑化のために用いられた交換用商品である」という、誤った解釈を信じこむことになる。

 

みんなが使っているからではない

 通貨が流通するのは、皆が使っているからではない。”皆が使っているから説”は、そもそも説明になっていない。なぜ皆が使うようになったのか説明してこそ、意味があるというものだ。「アダムとイブが使ってたんだ!」なんて言われたら、「そうですかー」としか答えられないが。

 みんなが使っているから使うという発想は、それで買い物ができるから使う、という生活に根差した感覚を反映しているのかもしれない。説明にはなっていないが、その発想に陥るのは当然なのかもしれない。説明にはなっていないが。

 

通貨が流通する本当の理由

 貨幣がその地域で流通する理由は何か。その答えは、究極的には、「その通貨の需要があるから」だ。なぜ「需要がある」のか?

 よく言われるのは、税や罰金をその通貨で払うため、というもの。租税貨幣論などと呼ばれる。(租税貨幣論は、現代貨幣理論が引くほど精緻に議論している。興味ある方は勉強なされ。)もちろん税や罰金を払うためというのも重要な需要だ。おそらくは最重要といえる。徴税は権力によって成し遂げられるし、特定の通貨を使わせるのも権力だ。権力による需要という側面は、間違いなく存在する。

 通貨を流通させるための重要な需要は、ほかにもありる。それは何か?「その地域内に、サービスの需要とそれに応える供給力があること」だ。

 以下、権力が通貨を流通させているという側面と、サービスの需要に応える供給力が通貨を流通させているという側面に、それぞれ言及する。

 

権力が通貨を流通させる

 国内で流通する通貨を定めるには、徴税権力や、国内の決済で特定の通貨を使用させる権力が必要だ。

 貨幣を発行することは誰にでもできる。単位を決めて、それでおしまい。だが、その貨幣を広く受け入れさせ、通貨として流通させるのは、とても難しい。試してみればその困難さがわかる。「なぜお前が管理する通貨を使わなければならない?俺にその通貨を管理する権利をよこせ!」とか、「おままごとに付き合ってる暇ないんだけど?」などの反応が返ってくることだろう。

 

権力の中でも特に徴税権力が、通貨を定めるときに効果的

 通貨を流通させるための権力の中でも最も重要なのが、徴税権力だと思われる。納税の義務を課すことは、「この国ではこの通貨を決済に使いなさい」と定めるよりも、通貨を流通させる手段として効果的だと思われる。なぜそんなことが言えるのか?私の知る限り、経験的にそうだったからだ。事例は面倒なので紹介しない。ごめんなさい。

 納税の義務を課す方が、決済に利用されているかどうか監視するよりも簡単だから、という雑な説明でよければ用意できるが、実際のところはよくわからない。

 

サービスの需要とそれに応える供給力が、貨幣を流通させる

 サービスの需要に応える供給力が通貨を流通させている。通貨は、現実問題として、決済手段として流通している。通貨の交換自体が目的で流通するのではなく、商品やサービスの取引の決済手段として流通するのだ。なぜ決済手段になりうるかと言えば、そのコミュニティーのみんながその通貨を手に入れる動機があるからだ。その動機の一つが租税かもしれないが、租税以外の動機もありうる。

 

 租税と関係なく通過が流通する例は、実際にある。例えば発展途上国では、米ドルが、(中には禁止されている地域でさえ)貿易と関係なく流通することがある。「米ドルはアメリカ産の商品を買うときに使える。国内の供給が途絶えそうになったら、すぐにアメリカから買おう」と皆が考えれば、皆が米ドルを求める動機になり、やがて通貨として流通する。また、世界に関たる先進国として威張っているアメリカ様も、昔は地下経済でポンドなどの外貨が普通に流通していたらしい。アメリカ国内で生産されていないモノを買うときに、銀行で両替していたら、やましい取引が当局に見つかるからだろうか?

 国内で外貨が流通するなんて、直観的には受け入れがたいかもしれないが、条件次第では現実的な話。そして重要なのは、租税の対象にならない外貨であっても、コミュニティーの皆がそれを欲しがる理由があれば、その外貨は通貨として流通するということと、商品やサービスの決済手段という需要が、その外貨を流通させているということだ。

 

ビットコインも、サービスの需要とそれに応える供給力を理由に流通した

 ビットコインの流通も、サービスの需要に応える供給力があってこそ、実現した*2ビットコインは、徴税権力とは無縁だ。それでも一部界隈で流通しているのはなぜなのか。国際決済を安い手数料で素早く行いたいという需要や、為替を利用した投機の需要などに応える形で、両替サービスを供給する取引所が発達したので、ビットコインは国際決済において流通した。取引所が無かったら、(少なくとも両替目的では、)まともに流通しなかっただろう。また、違法行為の需要に応えた商品を販売する人がいるからこそ、ビットコインが違法行為の決済に使われるようにもなった。いずれも、サービスに応える供給能力が、ビットコインを流通させたといえる。

 

石油という需要が、米ドルを基軸通貨たらしめる

 アメリカの軍事力によって強制されている側面は確実にあるが、基軸通貨たるドルが貿易で流通するのも、世界各国の石油への需要とそれに応える産油国の能力に裏付けられた結果だ。ここでも、需要とそれに応える供給力が通貨を流通させた、という構図は変わらない。

 サウジアラビアの通貨やユーロなどで石油取引の決済をしてもいいのでは?なぜ米ドル?と思うかもしれない。私はそう思う。が、実際にドル以外で石油を取引をすると、なぜかその国の悪事が発覚したり戦争になったりするという、悪いジンクスがあるのだ。怖いなー。そんなわけで、各国そのようなジンクスを気にして、米ドルで石油を売り買いしているのだろう。知らんけど。

 

 

為替相場制度と通貨主権と、政府の財政主権の範囲についての考察

固定為替相場制と金本位制について

 金本位制は、金と通貨を特定のレートで交換するという約束の下、通貨を流通させる仕組みのこと。なぜ金の価値が高く固定される前提なのか、考えれば考えるほどわからなくなる仕組みだが、通貨を利用する人間はそこまでいちいち考えていないので、よしとしよう。

 自国通貨を金と固定レートで交換する約束を守るため、金本位制を採用する外国の通貨とも、為替レートも一定に保つ必要があった。金本位制を採用するということは、同じく金本位制を採用する国の通貨との固定為替相場制を採用する、ということでもある。

 

為替相場の固定と高いインフレ率の両立は、慢性的な貿易赤字を誘発する

 固定為替相場制を採用する国は普通インフレ率が高い。仮に、固定為替相場制を採用する任意の国をX国と名付け、X国が自国通貨と米ドルとの為替レートを固定する場合を考える。アメリカのインフレ率とX国のインフレ率を比べて、X国のインフレ率が一貫して高かったとする。定額――例えば1ドル――をX国通貨に両替したとき、X国内で購入できるサービスは、時間の経過と共に少なくなる。X国通貨の購買力が上がりすぎるのだ。実質、過剰なX国通貨高だ。緊縮財政でインフレ率を引き下げたりしない限り、X国の貿易収支は慢性的な赤字になる。

 

固定為替相場制の採用は、財政主権を制限する

 固定為替相場制には、その国の政府の財政運営の選択肢を制限するという側面がある。どういうことか?

 為替市場で自国通貨が大量に売り出された場合、中央銀行は為替を維持すべく、大量の自国通貨買いを行うことになる。やがて中央銀行の所有する外貨が底を尽きてしまった場合、固定為替相場は維持できない。したがって、貿易赤字などに伴って為替市場で自国通貨が大量に売られたとき、政府は中央銀行の所有する外貨準備を維持するべく、次の3つの選択を迫られる。

①交換レートの変更。自国通貨の切り下げ

②外貨を借入

③国内の需要を収縮

①を行った場合、中央銀行の外貨準備が実質で増加したような状態になる。ただし、これをやってしまうと、更なる交換レートの変更があるのではないか?と不安になった民間部門が、さらに自国通貨を売って外貨を買うオペレーションを加速する可能性がある。輸入物価が上がるので、国内経済が冷え込む可能性があるし、場合によっては、輸出物価が下がることで輸出先の国との貿易戦争に発展しないとも限らない。ちなみに、ロシアのルーブル建て国債のデフォルトは、ロシア政府にルーブルを支払う能力がなかったというより、政治的な理由によるものである。詳しくは脚注*3にて。

②については、そもそも貸してくれる相手がいるかどうかという問題がある上、返済と利息払いの義務が生じる。外国に借金しておいて返済できませませんとなると、どんな要求をされるか分かったものではない。

③を行う方法は複数あるが、その手法は総じて”緊縮財政”と呼ばれる。国内経済の需要を減らすため、政府が国内の企業に発注する仕事を減らしたり、公務員の給料を減らしたり、増税したりして、国民を貧乏にさせることで、無理やり需要を減らすのだ。国内の需要が減れば、輸出はそのままに輸入が減らせるので貿易黒字になり、為替市場で外貨売り圧力が高まり、中央銀行は外貨準備を減らさなくて済むというオチ。

  また、”固定為替相場制と高いインフレ率は、慢性的な貿易赤字を誘発する”ので、現状の為替を維持するために、緊縮財政を行い国内のインフレ率を低下させる必要に迫られるかもしれない。これも、固定為替相場制を採用するリスクである。

 

 ①~③すべての方法で、その国は不利益を被る可能性が高い。金本位制を採用していた国は、「単純に金で価値を保証しないと誰も受け取らないだろう」という共同幻想ゆえに固定為替相場制を採用したかもしれないが、現在、金本位制とは関係なく特定の通貨との交換レートを守る発展途上国が数多く存在する。なぜ多くの発展途上国は、リスクを負ってでも固定為替相場制を採用するのだろうか?

 

発展途上国が固定為替相場制を採用する理由

 発展途上国とは、国内の生産力が低い国である。需要に対して国内の産業の供給能力が低すぎるあまり、自国通貨を持っていても国産のサービスには限りがある。需要が供給力を上回るため、インフレにもなる*4。そんな状況下では、税金や罰金を払う分より多くの自国通貨を持つ理由が弱く、みな外貨に両替したがる。外貨でモノやサービスを買うためだ。場合によっては、金融資産の目減りを小さくする目的もあるかもしれない。外貨に両替して外国のサービスを買うことを国民総出で続けると、為替市場で自国通貨の売り圧力が常に強くかかり、自国通貨安に歯止めがかからない。輸入物価が跳ね上がる。国内の供給能力が小さいところで輸入物価が跳ね上がれば、国民まとめて貧困化へまっしぐら。

 そこで、途上国は固定為替相場制を採用する。途上国の中央銀行が、為替市場で自国通貨と外貨を売り買いすることで、一定の為替レートを保つようにするのだ。

 途上国の民間企業や家計は「いつでも同じレートでドルに交換できるなら」ってことで、国内での自国通貨の流通が期待できる。

 加えて、高インフレの国が為替レートを固定していると外貨安に向かうため、外資から国内への投資も期待される(ここでいう投資とは、金融資産の両替ではない。モノやサービスの生産に使われる「資本」をつくるために資金を消費する活動だ)。国内の生産活動を外資に依存すると、国内法で裁きにくかったり、突然撤退されても文句が言えなかったり、必要な規制を適応しにくかったり、様々なリスクを背負うことになる。それでも何もないよりマシだということで、外資の投資に頼るということもあるだろう。固定為替相場制を維持しておけば、外資がモノやサービスを生産し利益が上がった時、外貨建てでも利益が見込める。変動為替相場制だと、外貨建てで利益が出る確率が下がる。

外資が外貨を自国通貨に両替

外資が自国通貨を使って投資

外資が資本を使って生産活動し、自国通貨で利益を得る(投資に使われた額を収益が上回る)

外資が自国通貨建て利益を外貨に両替

 

①、④の両替が同じ為替レートの時(=自国国通貨の購買力が上がりすぎた、実質X国通貨高状態のとき)、外資は投資費用を上回る収益を上げやすい。 

 

なぜ主権通貨を求めるのか

 政府の財政主権に注目して議論するときには、自国通貨のことを主権通貨と呼ぶらしい。ワードセンスがエクセレント!

 なぜ多くの国が”主権通貨”を求めるのか。ワンフレーズで述べれば、「政府が採用できる政策手段の選択肢を増やすため」だ。共通通貨であるユーロや、よその先進国の通貨を使用する場合、その国の政府は、当然だが、勝手にユーロを増やしたり減らしたりできない。あくまで家計や企業と同じ、利用者の地位に甘んじることになる。

 通貨の利用者は、財政政策の選択肢が少ない。なぜか?

 まず、政府の財政赤字が許されなくなる。収入以上に支出してはならなくなる。これが問題だ。経済成長する国には法則がある。経済成長する国は、インフレ率が上がり過ぎない限りにおいて、国債をガンガン発行してインフラや技術などに投資しまくっているのだ。社会福祉にも金を使う。その成果として、GDPが急成長する。債務残高(国債発行残高)は基本的に増え続ける。債務の伸び率とGDPの伸び率が一定だと仮定した場合、債務対GDP比率は、一定値に収束する。

 主権通貨を持たない場合、政府の財政赤字が許されず、高度経済成長が困難になる。投資するためには、同じ通貨を使う国からできるだけ多くの通貨を経常収支黒字で奪い取る必要がある。もちろん、ある国の経常収支が黒字であれば、その分、経常収支を赤字にする国が出てくる。「ユーロはドイツ流帝国主義」と一部界隈で囁かれたりしているらしいが、無理もない。ユーロ圏のほかの国からユーロを吸い取っているのだから。

 ユーロ圏の国では、欧州中央銀行の許しが無ければ、プライマリーバランスの均衡(あるいは黒字化)という厳しい財政規律を課せられる。国民が選挙で選んだ政治家も、予算の上限を決めることはできない。政府が債務不履行に陥った場合、欧州中央銀行に何を要求されても文句が言えない。政府より銀行の方が強い立場にあるのだ。

 民主主義を自称する国でさえ、国民に財政主権は無い。それが共通通貨を使うということだ。

 

 

 

 

為替相場制度と政府の財政主権の範囲について、箇条書きでまとめ

 

・変動為替相場制の場合

 政策余地が最も大きい。政府は国内の供給能力が許す限り何でもできる。自国通貨建て国債がデフォルトするリスクは無い。外貨建て国債を発行する理由もない。政府が歳入と比べて歳出を増やしすぎると、インフレ率が上昇し、通貨安が発生する。

 

・固定為替相場制の場合

 政治的な理由を無視すれば、政府は自国通貨建ての支払い能力に制限がなく、国内の供給能力が許す限り何でもできる。しかし、為替レートの維持のために輸入を減らしたい場合や、インフレ率を低くしたい場合、緊縮財政を選択せざるを得ないことが多い。為替レートの維持が目的で外貨建て国債を購入した場合や、中央銀行の外貨準備が底をついて固定レートで通貨交換する約束が果たせなくなった場合は、強制的にデフォルトする可能性がある。

 

・共通通貨を利用している場合

 政府は歳入の範囲内であれば支出できる。政府の財政収支赤字が続いた場合、デフォルトする。最も緊縮財政を要求されやすい。

 

 

インフラこそが、国家権力を支え、主権通貨の流通を可能にする

 国家が権力を行使するには、インフラの整備が必要となる。同じ教育を施し、おなじメディアや言語を共有し、同じ道路や水道や電気を共有する、そういったインフラなしでは、役所も軍隊も機能しない。国家権力はインフラによって維持されている側面が強い。便利だから利用しているという感覚でいても、依存していることに変わりはない。支配の基本は依存させることだ。便利を提供することこそ、権力の源である。

 インフラの整備は自国通貨を流通させるためにも必要だ。通貨の流通が国家権力に支えられていることに加え、需要とそれに応える供給力が通貨を流通させるので、インフラが整えば整うほど、自国通貨が国内で流通する理由になる。需要とそれに応える供給力が通貨を流通させる。

 インフラが国家権力を支え、財政政策を通じて国家権力がインフラを支える、というループ構図がある。ループがより強固になっていくにつれ、財政政策の選択肢が増える。ループがより強固になるにつれ、インフラ以外の産業の供給能力も発展する。

 インフラを整備し、国家権力を強化し、供給能力を強化する過程で通貨制度の選択肢は、以下のように変遷する。と私は考えた。

①よその先進国の通貨やユーロのような共通通貨を使うことを余儀なくされている段階

②固定為替相場制の下、国内では自国通貨とよその通貨が同時に流通する段階。税金や罰金や自国で生産できるものは自国通貨で、輸入品などの買い物は国内でも外貨で行われる。普通、固定為替相場制。固定為替相場を維持するために、外貨建て国債を発行したり緊縮財政を実行したりすることもある。

③固定為替相場制の下、国内ではほとんど自国通貨を流通させる段階。固定為替相場を維持するために、外貨建て国債を発行したり緊縮財政を実行したり。

④変動為替相場制の下、国内では自国通貨を流通させる段階。普通、国債を発行するときは自国通貨建て。 

 

 

 

 

主な参考資料(上でリンクしたものを含む)

動画

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

書籍

bookmeter.com

bookmeter.com

 

ウェブ

note.com

www.amazon.co.jp

*1:重商主義の時代に、ヨーロッパの人々が新世界に乗り出したのは、新たな金銀を求めていたからだ。国際貿易が盛んになると、金貨銀貨の需要が高まる。新しい金貨はどうやったら手に入るのか。新しい鉱山を見つければよい。鉱山を見つけたら、現地人を使役して金鉱銀鉱を手に入れる。このような理由で、ヨーロッパ人は各地を征服していった。ちなみに、産業革命以降の欧米列強が植民地を増やしていったのは、金山銀山を求めていたことが主要因ではない。産業革命によって爆発的に生産性が向上し、生産が国内の需要を大きく上回ってしまったので、新たな市場を開拓すべく各地で”条約”を結びまくり、その不平等さを理由に条約の締結を渋った相手には戦争で応じた。これが帝国主義の正体である。

*2:厳密な意味では、ビットコインは債務者がいないため、取引の記録ではあるが、債務と債権の記録でない。したがって、この記事における通貨の定義を満たしていない。しかし、それを言い出すと、例えば日本円の硬貨、10円玉などは、だれの債務でもない、すなわち貨幣ではないにもかかわらず、同じ日本円の単位を授かって、あたかも通貨として流通している。為替レートが発生するという点は異なるが、ビットコインも硬貨みたいなものだと思ってほしい。

*3:ロシアの銀行は、ルーブル建て国債を外国人が買いやすいように、「一定のレートで米ドルとルーブルを交換する」という約束を結びつつ、ルーブル建て国債を売っていたらしい。外国人は、変動為替に移行してルーブル安になって損するリスクを軽減できる。ルーブル建て国債は、その少なくない割合を外国人が持っていたようだ。それから、ロシア政府は大量の外貨建て債務を負っていた。ドルを借りないと為替レートを維持できなかったという側面もあるとかないとか。

そんな中、ロシアの中央銀行は米ドル準備の減少に直面し、為替レートの引き下げを余儀なくされ、変動為替相場制に移行した。

ルーブル建て国債の償還期限が来て、ルーブル建て国債を大量に所有していた外国人にルーブルを支払うと、その大量のルーブルが為替市場で売られて米ドルが買われ、さらにルーブル安になることが予想された。ルーブル安を放っておいたら輸入物価があまりにも上昇してしまう。

さらには、当時のロシア政府は外貨建ての債務を大量に背負っていた。ルーブル安になると外貨建て債務の返済が難しくなる。米ドルを買うときに、より多くのルーブルを売ることを迫られるからだ。外貨建て債務の返済のために大量のルーブルを為替市場で売ったりしたら、ますますルーブル安になる。ますます輸入物価が引きあがる。

それよりはデフォルトの方がマシだ、という政治判断から(?)、ルーブル建て国債は、自国通貨建て国債であるにもかかわらずデフォルト宣言された。国内で消費するサービスを輸入に依存し過ぎていたことと、政府が外貨建て債務を大量に保有していたことを理由に、急激なルーブル安を嫌ったのだろう。そもそも国内の生産力が輸入に頼らないほど十分であれば、固定為替相場制を採用する理由が無いし、為替レートの維持のために外貨建てで債務を負う必要は無い。ロシア国内の生産力の欠如が、ルーブル建て国債債務不履行の根本的な原因だ。

ルーブル建て国債を外国人が大量に持っていたのは、利回りの良い金利商品を求める外国人が結構沢山いて、かつ、外国人が保有するルーブル建て国債の量をロシア政府が厳しく制限しなかったから、と思われる。また、別の見方をすると、ルーブル建て国債を新規発行することによって、一時的には為替レートをルーブル高に持っていけるので、為替レート維持のためにその場しのぎでルーブル建て国債を発行しまくっていた、という可能性もあるかもしれない。知らんけど。

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「ロシア政府がルーブル建て国債を発行して為替操作する」の図

*4:インフレ率を左右する主要因は、需要と供給力のバランス、および輸入物価である。というのは、前提にさせてもらう。少なくとも、マネーストックを増やしたからインフレになるという説については、需要が供給力を大きく上回る場合や資産バブルの時など、限定的に正しいのだが、今回は無視する。信用創造の何たるかを理解していないマネタリズムが、心の底から気に食わないので。